東京高等裁判所 昭和28年(う)3084号 判決
被告人 大関正二
〔抄 録〕
論旨第一点について。
刑法第二百十一条にいわゆる業務とは、人が継続して或事務を行うにつき有する社会生活上の地位であつて、その自ら選定したものを言い、その事務の公私孰れであると、報酬利益を伴うと否とを分たず、又その者の主たる事務であると従たる事務であるとは何等関係ないが、娯楽のために行う者の狩獵行為は、たとえ、それが、狩獵免許者の行うところであるにしても、右にいわゆる業務に該らないことは、夙に大審院判例(大審大正八年(れ)第一七〇四号大正八年一月十三日第二刑事部判決し大審刑録第二五輯一〇八頁参照)が、趣旨として示しているところである。今これを本件について考察するのに、被告人が、昭和二十七年十月二十日付東京都発行第七七六七号乙種狩獵免許状を有していたこと、及び原判示日時、場所において原判示事実の経過を辿り、銃獵中過失により桜井民蔵に原判示傷害を負わしめた事実は、原判決挙示の証拠によつてこれを認めることができないわけではないけれども、記録によれば、被告人は、本来、株式会社東京計器部品製作所の監査役であつて、会社の役員としての職務を常業としていた者であり、本件狩獵は、十一月二十三日の勤労感謝の日に娯楽のためにこれを行つたものであることを窺がい得るものはあつても被告人が、狩獵を前示冒頭にいわゆる業務としていた事実は、これを証拠とし認定するに由がない。されば、被告人の所為は、刑法第二百九条の過失傷害の罪に該当するとは言えても、同法第二百十一条所定の業務上の過失傷害の罪に問うべき場合でないと言わなければならない。果して然らば、被害者桜井民蔵の告訴なき本件公訴の提起は、訴訟条件を欠く不適法な手続に属し無効であつて、本件公訴は棄却されなければならない。然るに、原審が、被告人の本件所為につき、敢て、刑法第二百十一条所定の業務上の過失傷害の罪に問うたことは、畢竟、法令の解釈を誤まつた結果訴訟条件の不備を看過して、不法に公訴を受理するの違法を冒したことになり、原判決は、到底、その破棄を免がれない。所論は窮極において理由がある。